事例 ~相続財産管理人選任~

相続財産管理人選任とは

相続人の存在・不存在が明らかでないときや、相続人全員が相続放棄をした場合などには、申立てにより、家庭裁判所が相続財産管理人を選任します。相続財産管理人は、亡くなった方の債権者等に対して債務を支払うなどして清算を行い、清算後残った財産を国庫に帰属させることになります。特別縁故者(被相続人と特別の縁故のあった者)に対する相続財産分与がなされる場合もあります。

相続財産管理人選任申立ての手続きとは
申立書に、その他必要な書類を添付して、被相続人の住民票上住所の家庭裁判所に申立てます。添付書類は、戸籍謄本や住民票、財産を証する資料等です。財産管理人に選任されるには、特に資格は必要ありませんが、被相続人と の関係や利害関係の有無などを考慮して、最も適任と認められる人が選ばれます。弁護士・司法書士等の専門職が選ばれることもあります。 申立てには、たくさんの書類を用意したり、場合によっては裁判所とのやり取りが何度も必要になることもあり、手続きは煩雑です。

事例その1 債権者による申立てのケース
依頼者である地主のAさんは、長年に渡りBさんに土地を賃貸し、その土地上にはBさん所有の建物が建っていた。Bさんが亡くなり、その後地代が未収となってしまっていたため、Aさんは未収分の地代を回収したいと考え、管理会社を通じてBさんの相続人に請求した。相 続人は、建物を相続して地代を支払うべきであることは承知していたが、そもそもBさんには借金があることも分かっていた。 建物を相続した場合、他に思わぬ借金が出てきた場合にすべて背負うことになると思い、そのまま放置していた。地代が未収となってしまったばかりではなく、建物が放置されているとなると、土地の次の貸借人を探すことができないために、Aさんの地代収入が途絶えてしまった。そして、空き家があるために近隣の治安も悪化する一方であった。地主のAさんは 困ってしまった。 そのような状況を踏まえて、当方は次のようなアドバイスをした。 ①相続人には、相続放棄の手続きを進めてもらう。 ※このケースでは、相続人は配偶者、子、父母、兄弟のすべての相続人である8名となった。 ②地主のAさんから債権者による申立てとして、相続財産管理人選任の申立てをしてもらう。 ③相続財産管理人により、Bさんの債権、債務の清算を進めてもらう。 ※もちろん、これには建物の処分も含まれる。 そして、地主のAさんは相続財産管理人選任の申立てを行うことを決断した。
ひとこと
Aさんはこの申立てにあたり、60万円程度の予納金を家庭裁判所に納めることとなりました。予納金とは、諸経費や相続財産管理人の報酬の資金として納めるもので、必ず返ってくるものではありません。最終的に余ることになれば返還されますが、このケースでは、Bさんにプラスの財産がないので返還されることはないかもしれません。費用は掛かりますが、手続きを行ったことで、借地上の建物の処分等の法的処理が進めやすくなり、一歩進んだと言えるでしょう。

事例その2 特別縁故者による申立てのケース
Bさんは未婚で子どももなく、一人で生活していたため、依頼者であるBさんの遠縁のAさんが、住まいが遠方であったにも関わらず、入院中 の世話・自宅の管理・Bさんの療養看護等に努め、親身に接してきた。Bさんの死後も、依頼者Aさんは、病院からの遺体の引き取り・お通夜・ 葬儀・家の掃除・納骨等を行い、位牌についても自らが預かって永代供養を行うこととした。入院費や葬儀代の立替等も自ら支出して行っていた。 一方、亡くなったBさんには、土地・家屋に始まり、預貯金・生命保険・投資信託等、総額4500万円を超える遺産があった。 しかし、この遺産については、相続人がおらず、遺言存否も不明だったため、依頼者Aさんは当方に相談に来た。相談の結果、依頼者Aさんは相続財産管理人の選任を申立て、遺産は散逸がないよう相続財産管理人に引き渡した。依頼者Aさんが立て替えていた諸費用は、相続財産から支払われた。 その後、Bさんのために献身的に尽くしたAさんに、特別縁故者として財産分与されるよう申立てを行ったが、裁判所の判断としては『親族としての通常の関わりを行ったに過ぎず、特別縁故者には当たらない』ということで、申立ては却下され、Bさんの多額の遺産は国庫に帰属することとなった。

ひとこと
特別縁故者とは、「被相続人と生計を同じくしていた者」「被相続人の療養看護に努めた者」のほか「その他被相続人と特別の縁故があった者」が規定されています。しかし、「その他被相続人と特別の縁故があった者」とは、被相続人との間に「被相続人と生計を同じくしていた者」や「被相続人の療養看護に努めた者」に準ずる程度に具体的かつ現実的に緻密な関係があった者をいうと解されるため、このケースでは、生前のBさんと依頼者Aさんとの関係、また、Bさんの死後に依頼者Aさんが行った行為等は、親族としての通常の関わりの域を出るものではないと判断されました。
このケースに限らず、『特別縁故者』として財産分与が認められるのは非常に稀です。Bさんはの遺産は、すべてが国庫に帰属されることとなってしまいましたが、果たしてそれはBさんが望んでいたことなのでしょうか。相続人がいない方や、法定相続人以外に財産を委ねようとお考えの方は、遺言書を作成しておくことが大切だなぁとつくづく痛感させられた事例でした。