積水ハウスvs地面師事件と不正登記防止申出制度

 

当事務所ブログにて皆様によくご覧いただいている記事ですので、当サイトにも転載しておきます。内容は2018年10月23日のブログ記事と全く同じものですのでご了承ください。

昨年、積水ハウスが土地取引で約55億円もの詐欺被害に遭った事件で、先日いわゆる『地面師』と言われるグループが逮捕され、それに関するニュースが多数報道されていました。
新聞、雑誌、TV、ネット等で様々なことが語られていましたので、それをもとに司法書士の目線でコメントしてみます。

マスコミは地面師の手口とか買主である積水ハウスにスポットを当てて報道しています。これは知る側も内容がわかりやすいし、興味がわくのでよく理解できますが、ここでは視点を変えてみます。

不動産登記に深く関わる司法書士目線からすると、この事件については、注目する箇所が2か所程あります。

 ①公証人による委任状の認証(不動産登記法第23条第4項2号) 
 ②不正登記防止申出制度(不動産登記事務取扱手続準則第35条) 

①について、このグループは、権利証原本の代替として公証人による委任状の認証を利用したとのことです。
不動産売買の際に権利証がない場合、通常は司法書士等による「本人確認情報」の提供という手段がよく使われるのですが、司法書士による本人確認の方が厳密になりがちなため、それを避けたのか、公証役場で偽造パスポートと印鑑登録証明書を見せて認証を受けていたようです。
費用が安くなり司法書士の責任負担も軽減されるために稀に利用されていたようですが、公証人の本人確認はかなり簡易であり、司法書士仲間では疑問視する声がありました。地面師グループはこれを巧みに利用して、買主及び司法書士をだまし切ったのでしょう。

②について、興味深かったので少し詳しく(あくまで仮説も含みます)

平成29年6月1日 残代金の決済
平成29年6月1日 所有権移転移転申請
平成29年6月9日 登記申請却下

6月1日に残代金が支払われているので、地面師グループは任務完了で登記ができるかどうかは関心ないでしょう。代金決済をした後に、司法書士が書類を法務局に提出するので、司法書士としては登記が無事に完了するまでの憂鬱な期間です。

ここでおやっと思ったのが、6月9日に『却下』とあることです。
私は20年以上、司法書士をしておりますが、登記申請で却下という経験がありません。恐らく多くの司法書士もそうでしょう。補正ということで、訂正、追加等の書類の不備を指摘されたことは何度もあり、取り下げも数回はあります。

登記申請で却下というのは、なかなかお目にかかれないものだし、9日間で却下されることなんてあるんだろうかという疑問です。却下するまでに法務局は1、2か月ほどかけたりします。
地面師グループが作成した偽造パスポート、印鑑証明書により公証人、買主、司法書士は騙されたが、法務局だけは偽造書類を見破って登記申請を却下したとの記事がありましたが、本当だろうかと思ったのです。

なぜこの申請があっという間に却下されたのか。
考えられるのは、事前に『不正登記防止申出』(不動産登記事務取扱手続準則第35条)の制度が利用されていたのではないかということです。
真の所有者が5月10日以降に積水ハウスに4通も内容証明郵便を出していたことからも司法書士、法務局等に相談に行ってこの申し出を行っていたのではないでしょうか。

この制度は、不正な登記がされる恐れがある場合にそれを防止するために設けられている制度です。例えば、権利証や印鑑証明書等を盗まれてしまったなどという場合に法務局へ不正登記防止申出書を提出しておけば、登記官が登記申請人に出頭を求めて本人確認が行われることとなります。また、不正登記防止の申出人に対しては法務局から通知が届くようになるのです。この制度が利用されていたとなると、却下の早さにも納得できます。

不正登記防止申出の制度は、原則として本人が出頭する必要がありますし、有効期限は申出から3ヶ月しかありません(再度申出は何度でも可能です)。また、その申出が必要となった理由に対応する措置をとっていないと受理されません。
対応する措置というのは、例えば、権利証が盗難にあった場合には、警察などに被害届を提出するなどといったことです。
簡単には使いにくい制度かも知れませんが、今回の事件のようなことがあったことを考えると、頭の片隅には置いておくべきかと感じました。

2018年11月02日