「所有権移転」と「持分全部移転」の一括申請について

 

当事務所ブログにて皆様によくご覧いただいている記事ですので、当サイトにも転載しておきます。内容は2016年10月23日のブログ記事と全く同じものですのでご了承ください。

 

売買による所有権移転の依頼がありました。
早速、準備のため受付メモの作成にとりかかり、登記事項証明書を眺めておりました。公衆用道路を持分でお持ちなので、「所有権移転」と「持分全部移転」の2申請だなと即座に判断していました。

売主甲さんの権利証のことがあるので、登記事項証明書を更に見ていると、権利証の受付番号が1つであることに気付きました。甲さんが取得された時の登記申請が1申請でされているということです。
相続が原因では一括申請ができるとは知っていましたが、売買でもあるようなので少し調べてみました。

司法書士以外の方にはわかりにくので基本に戻って説明します。
一括申請というのは、複数の登記申請を一つの申請書にまとめて申請することです。基本的には申請は一件毎に行うのですが、場合によっては一括申請が可能なことがあります。

まず、一括申請を行うには同一管轄内での申請であることは大前提です。管轄が違えば当然申請も別になります。その中で、よく話題(問題?)となるのは、「所有権移転」と「持分全部移転」の登記が一括で申請できるかどうかということです。

例えば、甲さんが単独で所有する土地Aと甲さんの持分が2分の1である土地Bを乙さんに売却する場合。
まず、申請書には『登記の目的』を記入する必要があります。『登記の目的』とは、その申請でどのような登記をするのか、ということです。この場合は登記の目的が土地Aの「所有権移転」と土地Bの「甲持分全部移転」で別であるため、通常であれば2つの申請となります。

しかし、

「登記研究」第423号125頁
所有権移転登記と所有権一部移転登記を同一の申請書ですることはできない。

「登記研究」第448号131頁
当事者及び登記原因日付を同じくする甲物件に対する所有権移転の登記と、乙物件に対する共有持分全部移転の登記を同一の申請書ですることはできない
※ただし、共有者の持分について第三者の権利に関する登記(処分の制限の登記を含む)がされている場合(昭和37年1月23日民事甲第112号)

「登記研究」第470号97頁 
登記権利者・登記義務者・登記原因が同一であり、かつ、持分の移転について第三者の権利に関する登記(処分制限の登記及び予告登記を含む。)がなされていない限り、所有権移転登記と共有持分全部移転登記は、同一の申請書で申請することができる

などの記載があり、これらによると上記の例において土地A・Bがともに同一管轄内にあり、抵当権等、第三者の権利が付いていない場合には可能であると解釈できます。

確かに一括申請は可能であり、前登記がまさに一括申請で取得されたものであるので、1申請にして登記申請をするいい機会だなと思いました。

しかし、これは先例ではなく登記研究レベルの話なので、実際には法務局によって解釈・扱いが違うということがあり、A法務局ではOKだったものがB法務局では通らなかったり、場合によっては担当者次第で変わることも(この一括登記の件に限らず)多々あります。
法務局サイドの記載のことも考えると、原則どおりに別申請にする方が実務的には安全策だなとの考えに至りました。

依頼者側からすると、一括申請するかしないかで費用が変わってくるのではないか、というのが一番の心配事かも知れません。
一括申請できそうなものを別申請にして申請件数が増えたとしても、手数料は同一にして、臨機応変に対応させて頂いています。

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2017年05月23日